ビールを飲みに駅にいこう。プラハ・デイヴィツェ駅、2015年5月14日。

チェコの駅ナカ飲み屋は小生のチェコにおける最大のツボの一つである。

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駅とは、内田百閒がかつてのたまったように、「なんにも用事はないけれど、列車に乗つてどつかへいつてこよおとおふ」というように、用事があるにしろないにしろ、列車に乗ってどこかへ旅立つ場所でもあり、かつて小生が幼きころそうであったように、列車を見にいくような場所であり、カメラとヘビーな三脚を抱え方々を飛び回る鉄男にとっては聖地も同然の場所である。

ところが、この国には、駅に「飲み」にいく、という、極東の我が祖国にはまず存在しない言い回しが存在する。そのような言い回しが存在するぐらい、この国の駅という駅には、飲み屋が、鉄道の駅のあるところ必ずといってほど存在する。

IMG_0001プラハ市内にも何個かそのような場所があるのだが、プラハ・デイヴィツェ駅Praha-Dejviceにある、駅ナカ飲み屋、通称Nádražka(駅をチェコ語でnádražíという)は、その中でもチェコ最強の駅ナカ飲み屋の一つと言っても過言ではない。

先週久々にプラハに帰還したの合わせ、このNádražkaをついに再訪できた。隣接のビアガーデンは、夕方の早い時間にも関わらず、プラハの下町の愉快な吞ん兵衛たちで溢れ、飲み屋の中のカウンターのサーバーの前には長蛇の列。

IMAG0187 小生もその列に加わり、待つこと数分、ピルスナー・ウアクウェレを注文する。

ドカン、とカウントにジョッキを置くのは、姉御で、値段もいわずに、早いとこ銭よこせ、とばかりに手を差し出し、一言もいわず、こちらから値段を尋ねると、35ダギャ(180円程)、兄ちゃん、とのたまうのみ。

IMAG0719ベルリンもといブランデンブルクにはこのような香しき飲み屋はおろか個性的なキヨスクすら見られなくなった。駅自体が画一的でつまらなくなったこともある。まあ、それが独逸人の嗜好であるといえば、嗜好なのだろうが。

つい先頃ザクセン州はドレスデンは東、ノイキルヒ(ラウジッツ、なので正確にはザクセンではない)というチェコとの国境近くの非常に香しき場所を訪れたおり、未だ健在の駅ナカ飲み屋を発見した。もちろん、ビールは一種類地元の地ビールだけという、もはや知る限り東独逸ですら絶滅種に等しい飲み屋に、小生が狂喜乱舞したことは読者諸氏に置かれては想像に固くなかろう。けれど、その飲み屋も今度閉店が決まって、駅の建物自体が競売にかけられると聞いた。

駅飲み万歳。なんでこんな素晴しい文化が独逸では廃れてしまったのか。

極東の我が祖国にも、駅ナカ飲み、に似た様な文化はなくもなかった。大阪の環状線の駅の中や地下鉄の駅の地下通路あたりには未だありそうな気配はある。

小生が90年代に青春18切符を駆使し、日本中を飛び回っていたころは、まだ比較的大きな駅にはあった記憶がある。特に、昨今僅かな例外を残して、死滅寸前にある夜行列車の始発駅終着駅には、立ち食い蕎麦屋と併設したような形で立ち飲み屋があったようにもおぼえている。その当時の小生には、当然縁はなかったわけであるが。

小生がしらないだけなのだろうが、最近は、ただ、大抵は駅の構内というよりかは、「駅前」あるいは「駅ビル」の中にも「立ち飲み」の形態の飲み屋もあるのだが、小生がここでいうような、駅ナカ飲みとは少し雰囲気が異なることがあるのはいうまでもない。なにがしら、世界中どこでもそうなのだが、小綺麗になっただけど、情緒も屁ったくれもない、というのが現状のようである。

さて。

このプラハ・デイヴィツェの駅のホームを見渡すベンチに座りジョッキを傾けていると、この飲み屋の中を、あるいは飲み屋の前に敷き詰められたベンチの上を埋め尽くす吞ん兵衛たちにもよく聞こえるようにと、大音量で列車の到着と発車を知らせる構内放送がなりひびく。

すると、飲み屋の中から、乗車前に、ビールで胃袋を満たしたチェコ兄貴たちが、荷物をかかえヨタヨタと、次から次へと外へ飛び出してくる。見ていると、中には、車掌が列車の発車を知らせる笛がなると同時に、猛然と飲み屋の中からかけ出て来たり、ホームのベンチからヨタヨタと立ち上がり、列車へと駆け込むような強者もいて、そんな兄貴たちは、同じようにビール腹を抱えたおっさん車掌あるいは飲み屋のカウンターに座っていそうなおばはん車掌に冷たい視線を浴びるし、時々は、吞ん兵衛どもめが、悪態をつかれたりする。

彼らは、そんなことは御構いなしに、ホームに止まっている列車のトラップを駆け上がっていくのであるが、当然のことながら、家路につこうとする飲み過ぎの兄貴たちの中には、トラップを駆け上がる際につまづくものもいる。それでもそんな兄貴たちは次から次へと、這い上がるように列車に乗り込んでいく。

列車が発車した後には、当然のことながら、その列車にのり損ねた吞ん兵衛たちが、その後を追いかけていくというような、チャップリンもかくやの光景に出くわすこともあるだろう。あるいは、兄貴の中には、出発進行直後の閉まった扉をけりあげて悪態をつくものも。飲み過ぎでそこまでの気力もないものは、無言で列車が去った後のホームに立ち尽くすことになる。

列車に乗り遅れた吞ん兵衛達は、しかし、例外なく、また一杯やってくか、とまたこの駅ナカ飲み屋のドアを押す。そうして彼らはバーカウンターの前にまたして長蛇の列を成すのである。

なので、チェコの駅ナカ飲み屋で、その様を観察するのは、下手な芝居をみているよりも面白おかしきものなのである。

ちなみにこの駅では、夏の夜も10時になるとビアガーデンは閉まる。というより、近所への配慮から、店内へ入るよう即される。さもなくば、吞ん兵衛たちの夜は長いのであるから、果てしなく彼らが騒ぎ続けるのに付き合うとなると際限がない。

すると、ビアガーデンを占拠していた吞ん兵衛たちは、飲み屋の中にはいるや、ホームに続々と流れていく。次の列車でご帰宅か、と思いきや、おもむろに駅のホーム、中には線路の前に腰をおろし、ジョッキをレールなり枕木の上において、宴の続きを始めるのである。

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IMAG0377そして、列車の到着を知らせる放送が鳴り響くと、酔いが醒めたかのように皆一度は腰をあげてホームで列車が到着するのを待つが、そんな吞ん兵衛どもの存在をしってか、列車はやつらがたむろうホームを避けて別のホームに到着する。そうする合間に、次のビールをとりにいくものもあるだろう。

IMAG0373a小生の最近の夢は、ベルリンのどこか、あるいはブランデンブルクのどこかで、かつてあったはずの駅ナカ飲み屋を復興し、小生自らビールサーバーに立ちビールを注ぐことなのである、といっても過言ではない。

誰か一緒にその小生の夢を実現しようという吞ん兵衛はいないだろうか。

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20年後の小生とチェコでの吞ん兵衛友達の予想絵。

では又。駅ナカ飲み屋、あるいはその夢の駅ナカ飲み屋で又自戒。

PS.もし、読者諸氏に、独逸にこそ、あるいは極東の我が祖国にこそ誇るべき駅ナカ飲み屋が健在であることをご存知の方は、kodo(at)luegenlernen.deまで一報あれ。是非訪れてみたいと思う。