11. Neisse Film Festivalのための忘備録

個々4年ほど、ドイツはザクセン、ポーランド、チェコ共和国との国境地帯に5月の第二週に開催されるこのナイセ映画祭に参加するのが、この皐月の始まりの恒例行事になりつつある。まだ11回目と歴史の浅い映画祭ではあるが、毎年10月に行なわれるコトブス映画祭と並んで、中東欧各国からの作品を焦点にしていることでも知られている。

メインの会場はドイツ側はチッタウ、それからゲルリッツ、ポーランド側はボガティニア(この会場で去年の夏ごろ、当ブログでも話題にした、当地が舞台である史上最強のポルスカ・ディプレシア・ドキュフィルムの一つである「シェニャフカ」Sieniawkaが今年凱旋上映を飾ったという)、チェコ側は今年からリベレツのKino Varšavaが映画祭の会場に加わった。その一方で、昨年までのメイン会場であったヴァーンスドルフVarnsdorfがフェスティバルの会場から外れた。昨年、小生も当地を訪れたが(詳細はここより)、巨大な映画館に観客は4人という有様であった。わざわざ列車にのって、ヴァーンスドルフへ小生がいった上映会を訪れたのも、無論、小生とベルリンのジャーマン同居人のみだった。これはある種のイヴェントとしては惨状といってもよい有様だった。無論、ヴァーンスドルフが、昨今のネガティヴな話題からこうして逃れられないのは残念なことであるが、このテーマはまた別の機会に。

小生の映画祭の初日は金曜日の夕刻。プラハよりチェコ側のこの映画祭の開催地の一つであるリベレツへは金曜日の午後の列車で向かう。

今回は、プラハのはずれにあるチェルニー・モストČerný mostからの直通のバスではなく、ムラダー・ボレスラフ経由して、トゥルノフで乗り換えを挟むローカル列車の旅程で、今回はリベレツまで向かった。

プラハの中心部から地下鉄にのってバスのルートであれば、1時間45分ほどとあっという間の旅であるのだが、小生の体内を流れる血液の鉄分濃度が高さが成せる技か、今回は二時間以上はかかるローカル列車の旅を選んだ。

プラハの中央駅を出発した3両編成のディーゼル車、しかも、70年代から80年代に製造されたとおぼしきディーゼル車は、小生が90年代に日本国内でトレインスポッティングに明け暮れていたころにまだ、東北や中国地方あたりでまだ走っていた旧国鉄製のディーゼル車を思い起こさせるような大爆音をたてながら、ボヘミアの大地を、しかし、ガタンゴトンがたんごとんとのんびり北へと走る。

プラハを出ると、列車は快速運転になり小さな停車場ともいい難いような駅はどんどん通過。時折停車する駅には、チェコ恒例の駅ナカ飲み屋が必ずといっていいほどあるし、午後の早いうちから1人で痛飲する頑固親父たちを各駅にて散見。

この路線はシュコダ車でも有名なムラダー・ボレスラフのあたりから、北ボヘミアでも有数の景勝地とされるチェスキー・ラーイČeský rájの只中を走る。高速道路から見慣れた平凡な光景と比べると、やはり列車はよい。なんといっても、チェコの鉄道はまだ窓があけられる車両がそこここにはしっていて、しかも、ポーランドあたりとは異なって、座席も張り替えられているなど、手入れも行き届いているので、乗り心地もよい。

と普段はベルリンへの裏ルートとして急ぐ道のりも、時間がある折は列車での旅が断然よいということを確認。

さて。リベレツでは今回のチェコ側会場のひとつであるKino Varšavaを訪れる。

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この映画館は1923年に建造されたこの街最初の由緒正しい映画館の一つなのだが、この五年空き家状態が続いていた。それを地元の若手の建築家やアーティストの有志が映画館としてのみならず、この街及び地域の文化拠点として、今回の映画祭の開催にあわせて再オープンにこぎ着けた。

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が、改装作業は明らかに続く模様で、その日のスクリーニング後に話したKino Varšavaのメンバーの1人によれば、夏までに下の階の改装は終えたい、とのことであった。改装後は映画上映でなく、様々なイベント、展覧会やコンサートなどが計画されているということだ。またこうした普段は通り過ぎるだけだった場所にこうやって立ち寄るべき理由ができるのは喜ばしい限りである。

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この日は、ショートフィルム二本のあと、上映されたのは60年代チェコ・ニューウェーブが生んだ傑作の一つ、ヤン・ニェメッツの「ダイヤモンドの夜」だった。映画館の中はとにかく冷蔵庫のように寒く、熱い茶をそそりながらの上映会であった。

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上映会の後は、映画館の向かいの飲み屋でビールを一杯やり、そのドイツ側へ向かう終電でチッタウへ。

次の日はチッタウのKronnenkinoで二本見る。

一本目はJako nikdy(Like never before)。

死の床にふしつつあるある芸術家とその家族と彼の周りにいる女性たちをめぐるストーリー。映画の中で映し出される美しきボヘミアの風景、主人公の1人が退屈しのぎに日々を過ごす典型的なチェコの飲み屋でのシーンなどツボとなる要素はたくさんある。

二本目はポーランド・デンマークの共同制作のIda。昨年のポーランドでの最優秀映画に選ばれたというこの作品。全編モノクロのポーランドの秋から冬にかけてのポーランドの大地の憂鬱さが美しく映える。小生が知るポーランドの風景とはこんなものだったか。映像美という点では特筆すべきものがある。

IDA TRAILER from Det Danske Filminstitut on Vimeo.

ストーリーはユダヤ人のカトリックの修道女として育てられた少女とその「叔母」を中心にめぐる。彼女たちの失われた過去を求めて、彼女たちは、対戦中行方不明になったその少女の母親の消息をおい、彼女たちはその最期を迎えた場所へと向かう。その中途で、戦時中のユダヤ人をかくまったものたち、そして、それを自らとその家族の運命がゆえ、彼らを見捨ねばならなかった人々の、そして、その後に残されたものたちの生き延びることを選択した者達の過酷な運命と葛藤が語られる。

個人的にはテーマ音楽であるバッハの「イエスよ、わたしは主の名を呼ぶ BWV 639」が映像にマッチしていたかと思う。タルコフスキーの惑星ソラリスでも聞くことができたこの小品。多かれ少なかれ、タルコフスキーへのオマージュともいえなくもなかったか。

今年は残念ながらこのチェコ側でみた作品の他はこの二本のみ。金曜日の夕方と土曜日だけではやむをえないか。けれど、密度の濃い劇映画を久々にみた気がしたがゆえ、今回はこれでよしとした。

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毎年訪問者の少なさが気になるが、それでも、上映プログラムは毎年わざわざこの地域へ足を運ぶに値すると思っている。それゆえ、今後もこの野心的な試みを、この中央ヨーロッパの片隅で続けられることを願う。是非興味のある方は、この映画祭が開催されるオーバーラウジッツを訪問あれ。南はボヘミアに続くこの地域は著名な観光地とはいえないけれど、よくチッタウの良く保存されたゴシック、バロックからモダニズムまで、様々な時代の建築のスタイルが混在する街並と、その周辺の風光明媚な自然は実に穏やかでリラックスできる時間を提供してくれる場所だ。

ではまたどこかの映画祭で。また自戒。