最近日本人を「飼い始めた」プラハ・ヴィノフラディの雌犬の小話。

妾は犬である。白の雌犬である。生年月日は知らぬ。

妾を「飼っている」とおめでたくも錯覚している痴れ者、ともかくも妾の書類上の「飼い主」である、チェコ人ダヴィド・Jがいうには2013年の一月ということである。

なので、妾はまだ一歳になっていないということである。

しかし、妾も間もなく一歳になる。かくして犬も年を重ねる。あなおかしである。

妾がダヴィド・Jの宅に赤子としてやって来たおりにはもう二人女子がいた。

いた、というのは、もはやいないということなのであるが、だいたい妾は人間の女子には興味がないのじゃ。だいたい愛想もないし、大体、御犬様に仕えるという気概のないのが女子の常故である。女子が好むのは猫である。

そのうちの一人はフランスなる遥か西の彼方からやって来たよいう女子であったが、妾を毛嫌いしていたので、妾は毎日その醜い顔に、毎日会う度に唾をはきかけ吠えかけてやったほどである。今だからいえるが、その女子の不在時には、その女子の寝台の下で隠密に小便をたれてやったりしてやったもの。あな、はしたなきこと。ごめんあそべ。

その不倶戴天の女子は、もうすでに、妾の邸宅から去って、すでに三月程になる。逆に吠え面かけられぬ故、妾は毎日退屈している。雌犬の儚き性とでもいうべきものやあらんや。

もう一人いた女子は、ダヴィドとかいう痴れ者の家政婦のような女子であった。一応ダヴィド.Jなるものの愛人だったようではあったが。ともかく、毎日、その女子、妾の散歩の供をするにやぶさかではなかったが、段々と愛想も屁ったくれも無くなっていく様に、妾は再三愛想を尽かしていたほどである。

なんでも、先頃、妾に対して「主人面」をするがダヴィドなる痴れ者に対して、その女子、愛想を尽かして去ったからということじゃ。それ故、あの女子、妾にさよならもいわずに去ったわ。

ここのところ、妙な男が妾の邸宅に住み着いている。なんでも、東の地の果て日が昇る国、とかいう、なんというたか、さうである、日本とかいう、遥か遠い国からきたという妙な男である。妾もいつかはその短い生涯のうちにいくこと適うところであるかはわからぬような、遠い場所であることよ。

しかし、その男、よくわからぬのである。

だが、毎日食事を欠かさず饗応してくれるし、時々、妾の日々の遊戯の相手をしようとはしてくれる。とはいえ、妾としては、それも退屈しのぎの域をでないことであったことよ。妾も適当に愛想も振りまいてやったので、あの女子二人どもよりかは退屈せぬ。不届きなことに、毎日の散歩へは、妾の供をしようともせなんだのである。

ところが、いかなる風の吹き回しか、この二週間ほど、あの男、妾の散歩の供をするようになった。

とはいえ、妾の歩行や用足しにすら配慮することのできぬ痴れ者であるのだが、ともかく、一日二回の散歩の供をするようになったのは、日々是退屈雌犬の妾にとっては、関心なことである、とも思わぬでもない。

今日は最後に、妾が「飼う」痴れ者二人の戯けぶりについて語っておこう。

一週間ほど前の夕刻である。

その夕刻頃、妾はかの日本人を供として引き連れ、散歩にでていたのである。

宅より15分ほども歩いたところであった。妾は初めて見るクリスマスツリーとやらに見とれていたのである。

木がキラキラ光っているのである。不思議なこと。

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ウトウトしつつ、クリスマスツリーとやらを眺めていると、前方でけたたましき音がするではないか。空が落ちてくるような割れて裂ける様な音がして、そして空から火の玉が落ちてくる。火の玉が妾を狙っていたのじゃ。

その初めて見る景色のなんとおそろきこと。これを人間どもは花火と呼ぶそうであるが、こんなものを面白オカシキと思っているようである。そんなわけはないのである。空が裂けて、その裂けた隙間より火の玉が雨のように落ちてくるのである。

全くの痴れ者野蛮人どもめ。

妾は、背後で妾の名を呼ぶ、かの日本人を背後に、脱兎のごとく安全たろう妾の家の方向へと走ったのである。生きた心地がせぬかったゆえ。途中あった茂みに身をひそめて、その火の玉をやり過すことができた。

ところが、気がつけば、なんと情けなきこと、その日本人は妾の健脚に従うべきものを、あらぬことか妾を見失う始末。

ここまで目をかけておきながらこの低落。

ゆえに妾は一足先に勝手見知った家路を颯爽と戻ったのである。

ところがあの痴れどもは一向に家へと戻る気配を見せぬ。

二時間ほどがたつて、近所の若者が家の扉を開けてくれなければ、妾はずっと不動の姿勢で、家の前に座していたことであろう。

そして、三時間ほどたつて、憔悴しきったチェコ人と日本人の痴れ共二人が戻ってきたとき、妾は立腹のあまりにその二人に吠え面をかいたのである。全く役たたずどもめ。

妾にとっては腹が減ること甚だしき一日であった。

ではまた自戒じゃ。